長崎家庭裁判所佐世保支部 昭和37年(家イ)56号 審判 1962年7月19日
申立人 藤山文夫(仮名)
相手方 藤山伸二(仮名)
相手方兼右法定代理人親権者母 林スミコ(仮名)
主文
申立人と相手方伸二との間に親子関係が存しないことを確認する。
理由
申立人は主文同旨の調停審判を求め、その理由の要旨として、申立人と相手方林スミコは元来夫婦であつて、両名間には長女京子、長男輝一が生れたが昭和三十一年一月以来別居し以来今日まで全く夫婦関係はない。ところで申立人は過日戸籍を調べてみると申立人の戸籍に相手方伸二が二男として記載されているのを知つたがこれは申立人の推察するところでは相手方スミコは申立人と別居後の昭和三十二年以来九州で某男と内縁の夫婦関係を結んでその間に某男のたねを宿し昭和三十五年九月六日に相手方伸二を出産したが、当時申立人との法律上の離婚ができてないために申立人の二男として事実に反する出生届をしたために虚偽の記載がされたものと思われる。申立人は相手方スミコと別居生活に入つた当時申立人の印鑑をスミコの親族に預け同女との離婚手続を依頼していたので申立人はすでに離婚がされていると思つていたところ最近長女京子の就職準備のため戸籍を取寄せ離婚してないことや伸二の出生に関する戸籍記載の事実を知つたので申立人は相手方スミコと昭和三十七年六月二十日協議離婚した。そこで相手方伸二を申立人戸籍から消除する必要があるので本申立をしたというのである。
本件調停につき昭和三十七年七月九日午後一時当裁判所で開かれた調停期日に相手方スミコは出頭し本件事実関係についてはすべてこれを認め主文同旨の審判をすることに異議ない旨述べたが申立人は調停期日の翌日である七月十日に出頭したので調査官に対し事実調査を行わせた。
記録にある申立人及び相手方スミコの各戸籍謄本の記載、調査官の調査報告書、(陳述者相手方スミコ、その内縁の夫武田太郎及び申立人)等を綜合すれば、
一、申立人と相手方スミコは昭和十六年十二月二十六日婚姻し両名問に長女京子、長男輝一をもうけたが昭和三十一年六月頃協議の上事実上の離婚をして別居生活に入り昭和三十二年八月頃と昭和三十三年三月下旬頃の二回程長女京子の養育上のことで会つたことがあるだけでそれ以来互に文通もなくその所在さえ不明の状況にあつたこと。
二、相手方スミコは申立人と別居後現住所地の福島炭礦に務めている長兄の許に身を寄せていたがその後旅館女中として働いている間に仲介人があつて昭和三十四年十二月初旬頃から当時佐賀県伊万里市二里町中里で醤油販売業をしていた武田太郎と同棲生活に入り同人のたねを宿し同地居住吉永サダの助産で昭和三十五年九月六日相手方伸二を出産したこと。
三、相手方伸二が前記事情の許で生れた昭和三十五年九月六日当時は相手方伸二の父母である申立人と相手方スミコとは法律上の婚姻関係にあつて、同三十六年十二月二十二日母である相手方スミコより伊万里市長に対し同女と申立人の二男として出生届がされた結果申立人の戸籍に相手方伸二が二男として在籍していること。
四、申立人と相手方スミコとは昭和三十七年穴月二十二日相手方伸二の親権者を母スミコと定め協議離婚をして右スミコは新戸籍を編製し申立人の戸籍より除籍されていること。
五、相手方伸二は出生以来相手方スミコとその内縁の夫武田太郎の許で扶養され本件事実関係についてはすべてこれを認めて相手方伸二を申立人戸籍より消除することを望んでいること。
以上のような事実が認められるところ、本件は前記戸籍記載からみれば相手方伸二はまさに相手方スミコが先夫である申立人と婚姻中に懐胎した子であつて先夫たる申立人の子と推定されるのであるから、相手方伸二を申立人の戸籍から消除するための前提としては嫡出子否認手続をもつてすべきであると思われるけれども、前認定のように少くとも申立人と相手方スミコとは協議の上で昭和三十三年三月末頃事実上の離婚をしたものであるからその月日頃をもつて両名間に婚姻が解消したとみることができるからそのようにみれば相手方伸二はすでに父母の婚姻解消後三〇〇日経過した後に生れたものであるので嫡出の推定をうけないことになり親子関係不存在確認手続で処理できるものと解する。
つぎに本件調停期日には申立人が不参で翌日出頭したために家事審判法第二三条所定の合意ができなかつたので同条による審判はできなかつたけれども当裁判所は調停に代わる審判をすることにするが、家事審判法第二三条に規定する事件はいわゆる任意処分不能な事件といわれるものであつて同条の事件について当事者間に合意が成立してもこれを調書に記載したところで調停としては成立したものではなく同法第二一条に規定するように調停が成立したものとして、その記載が確定判決と同一の効力を有するものではない。ただ当該合意を前提として家庭裁判所が事実調査をして審判をするか否かを決するのである。 同条と同法第二四条を対比すれば法第二三条事件が審判をする前提として当事者間の合意が必要な要件であるのに対し、法第二四条事件は当事者間に合意ができれば同条の審判をする必要はなく調停成立として事件は終了するのであるから法二三条事件を法第二四条によつて審判することはできないといえないこともないが同二三条事件は前叙のように本来調停成立として終了しないところの訴訟事件(同法第二一条二項)であるから法第二四条所定の「調停委員会の調停が成立しない場合」に該当するものとして同条の審判の対象となるものと解する。
また法第二三条事件を法第二四条事件で処理する場合に当事者や利害関係人の審判に対する不服申立の面から考えてみると右各審判には異議の申立ができそうして二週間内に異議の申立があると各審判は効力を失うのであつて両者何れも差異はないしただ異議申立人を法第二三条事件については利害関係人に限定しているのに対し法第二四条事件には当事者を主としそれに利害関係人を加えているに過ぎない。
そうして法第二三条事件を、同法条の規定により、または法第二四条の規定によりその何れによつて審判したとしても利害関係人は不服申立ができるのであるからその保護に欠けるところはないし、当事者は法第二四条事件については不服申立をして審判の効力を失わせることができるからその保護に欠けるところはない。
また調停委員会の調停における頑迷な当事者の主張のために必要な合意ができなかつたり、或は何らかの事情で当該調停委員会に当事者が出頭できないで合意の合致が得られなかつた場合等においては当事者双方の当該事件についての紛争解決の意思、経済的事情、感情、その他の情況を勘案した上でいわゆる調停に代わる審判をすることも必要なことがある。
以上述べたとおり法第二三条事件を合意がない場合に法第二四条事件として処理することも許されるものと解する。
そこで本件については、申立人は山口県徳山市から水害事情のため調停期日である七月九日午後一時に出席できず翌日十日に出頭したことが明らかであつて事件解決のためには調停に代わる審判をするのが相当であると考えるので家事審判法第二四条第一項により主文のとおり審判する。
(家事審判官 立山潮彦)